ある人が電話で会話をしているようですが、何の話をしているのか想像してみてください。
まぁ、確かに口よりお尻から入れて閉めた方が早く済むでしょうし、コストもかからないとおもいますが・・・・。
そうですかぁ・・・ それで、機械はあるんですか? へぇ、なるほど超音波でしめるんですね。 はあ、お尻をしめるときに刻印で、、、それは楽でいいですね。 なるほどそれなら安心です。はい、わかりました。 それならハメ殺しにしておきます。 ええ、そうしないとちゃんと前向いてくれないかもしれないですから、、、。 はい、わかりました。 それでは引き続きよろしくお願いします。」
なにやら物騒なお話をしているように聞こえますね(笑)
実は、電話の会話は化粧品用チューブメーカーの人が、化粧品工場の人と話している様子でした。(セリフはあえて少し大げさにしました。)
会話の中で出てきた「お尻から〜」「口から〜」とか「ハメ殺し」という言葉は実はいわゆる業界用語というやつです。
化粧品関連業界の人すべてがこのような言葉を使っているわけではないですが、私が仕事をするときには良く使っていた言葉です。(オモシロかったので私がわざと使っていたとも言えます。)
それでは、この用語の説明をします。
尻から入れる? 口から入れる?
チューブ容器への化粧品中身の充填は2パターンあります。
エンド充填(お尻充填)
図の左側の充填方法です。
普段、チューブ容器から中身を出す口部とは反対側をお尻(エンド)と呼びますが、このエンド側から中身を充填することを「エンド充填」といいます。
私は「ケツ充填」と呼んでました。中身を充填した後はエンド側を貼り合わせる「エンドシール」という作業を行って完成します。
口充填
図の右側の充填方法です。
エンド側が閉じているチューブ容器は、口部側から中身を充填し、キャップを締めて完成させます。生産量が少ない場合や、エンドシールが出来る機械がない場合に行います。
2つの充填方法がある理由は、化粧品製造工場でチューブのエンドシールをする機械を使用するかどうかの違いです。
チューブ充填機は大がかりな機械がほとんどです。
チューブ充填機の動きの流れは
①チューブをセット→②中身の充填→③チューブの印刷内容を判断して、シールの方向を見極めるために回転→④エンドシール
とここまでの動きを自動で行います。この複雑な工程を自動で行う代わりに、事前の設定に時間がかかったり、調整に何本もの失敗作ができて、チューブ容器やの中身のロスが出ることもあるため、一回の生産が大量の時には向いている充填設備です。そのため、生産量が少ない場合は、あらかじめエンドシールした状態のチューブ容器を手配し、口充填を行う方が、事前準備や後片付けの時間及びロスの少なさの観点から口充填を採用する場合もあります。
超音波?
超音波とは、幾つかあるエンドシールの方法の一つのことを指します。
化粧品で使うチューブ容器のエンドシール方法は「ヒートシール」「超音波」「ホットエアー」の3つが主流です。
ヒートシール
エンド部分の樹脂を熱で溶かして溶着させます。
シール後はエンド部分の横にバリのような樹脂のデッパリが出来るのが特徴です。
超音波シール
超音波をエンド部分に当てて、超音波振動による摩擦熱で樹脂を溶着させます。
ヒートシールと違ってバリは出ません。
ホットエアーシール
ヒーターを使ってチューブ容器の内面樹脂を溶かして溶着させる方法です。
ヒートシールや超音波ではシールしにくいラミネートチューブなどのエンドシールに使用されます。
ラミネートチューブは通常の樹脂のみで作られたチューブとは異なり、アルミ箔層などが挟まれた特殊なチューブで、中身の保護(バリア性)や、意匠性(デザイン性)が異なるチューブです。^
ハメ殺し?
それから、ハメ殺しです。
一般的なハメ殺しという言葉は、開閉のできない窓のことで建築業界で使われる言葉のようですが、今回のハメ殺しは、一度組み立てると分解することができない容器と中栓やキャップのことです。具体例は図で説明します。
図はハメ殺しの基本的な原理を表したものです。図の左から右に進むように本体にキャップがされている様子です。
右の図を見てわかると思いますが、返し部分が本体に引っかかっていますので、一度キャップをしてしまうと外れなくなるのがわかります。
今回のチューブ容器の場合には、チューブの口部にワンタッチキャップというパーツを使うのですが、ワンタッチキャップとチューブの胴体部分(スリーブ)組み立て方式にハメ殺しを採用することがあります。
ワンタッチキャップは、それ自身が開閉機構を持つキャップなのでスリーブとキャップが外れるスクリューキャップとは違う形状になります。
これらを踏まえて、もう一度最初の会話を見てみましょう。
はい、わかりました。 それならハメ殺しにしておきます。 ええ、そうしないとちゃんと前向いてくれないかもしれないですから、、、。 はい、わかりました。 それでは引き続きよろしくお願いします。」
全く違う話に聞こえましたね。